| 頭から肩にかけて、こりや痛み、手や腕のしびれがある
頸肩腕症候群とは、頭痛やひどいこり、首痛、手のしびれ、慢性の疼痛、背筋痛などが現れる症状です。
40年ほど前から主に整形外科で、首、肩、腕に病状がある病気を総じてそう呼んでいました。
現在はそのなかで、職業病、つまりパソコン画面を見つめて作業をしたりする“上肢作業”によって、頸、肩、腕に症状が出る場合だけを「頸肩腕症候群」と名付けて扱っています。
アメリカでは「反復性ストレス障害」と呼ばれ、年間累計約150万人の患者がいます。日本でも80万人ほどはいるでしょう。重症の場合は労災認定を受けられるケースもあります。
VDT症候群とも深い関係が
最近、「VDT（ビジュアル・ターミナル・ディスプレー）症候群」という言葉を耳にしませんか？ パソコンを使うことで起こる様々な不調のことです。
VDT症候群は、目の疲れや視力の低下、ドライアイなど目の症状が注目されがちです。しかし実は症状が眼精疲労だけという人はまれで、大抵の人はひどい肩こり、手のしびれ、頭痛などの症状も訴えます。つまり頸肩腕症候群が、VDT症候群の基本の病気なのです。
だから目のケアをしただけでは症状は改善されません。「頸肩腕症候群を改善することで目の疲れも落ち着いてきた」という症例がかなりあります。
仕事の熟練度や、脳の疲労も関係する
頸肩腕症候群の原因には、上肢作業のほかに脳の慢性的な疲労も関係していると考えられます。
現在、私の患者さんの職種はシステムエンジニア、プログラマーなどコンピュータ操作を含む事務系作業が最も多く、楽器演奏者、調理師、エステティシャンなどもいます。
なかでも目立つのが、通訳や手話通訳、電話オペレーター、保母、介護士などです。
この人たちは常に周囲に神経を払っていたり、脳でふたつのことを聞き同時に変換するような仕事をしています。この場合は、作業上で必要な脳の慢性的な神経疲労が、頸肩腕症候群の要因に関係していると考えられます。
イライラや緊張など精神的なストレスも肩こりを引き起こすといわれますが、それよりも脳を使うことによって疲労が起こっているわけです。
またその職種・仕事に熟練していることも大きな要因です。新入社員よりも30代〜40代の中堅社員、新米よりもベテランの職人に患者さんが多いのです。
さらに患者さんの240人中女性が158人です。女性が多いのは事務職など仕事の性質と、女性のほうが男性よりも筋力が弱いという、もともとの体質も関係しているでしょう。
休みのとりにくい派遣社員にも発症が多く、凡帳面で真面目な性格などの素因もあります。
こんな症状はありませんか？ 頸肩腕症候群チェックシート
頸肩腕症候群は 「今日はまだ大丈夫、今週はまだがんばれる」とがまんをしていると、だんだんと悪化してきます。頸肩腕症候群をチェックする10項目があります（チェックシート参照）。
いかがですか？ 3つ以上に当てはまったら、専門医を受診するのがよいでしょう。本当は「髪をとかすのがつらい」だけでも異常なことですが、程度を示すために3つとしています。
ほかにも痛みで働くのがつらくなったり、土日はほとんど寝てばかりいたり、という場合は問題です。
受診の窓口はまず整形外科です。痛みは麻酔科（ペインクリニック）、神経内科でもよいでしょう。ただし、頸肩腕症候群の専門家はまだ少なく、東京都内でも私を含めて3人ほどしかいません。インターネットなどで調べて、なるべく専門家のいる病院を受診することをおすすめします。
叩いて知る検査と、握力検査でわかる「重症度」
こりや痛みを客観的に診るのは、非常に難しいとされます。こりを押して調べる 「圧痛法」だと、少しの肩こりでも必ず「いたたたた」 となる部分が出てしまいます。
そこで指先でこっている部分を叩いて調べる「叩打痛法」（タッビングペインマップ）で調べます。
人差し指か中指1本で、腕や肩を軽く叩いていきます。すると普段は痛みを感じていなくても、叩くと痛いポイントが出てきます。それが「叩打痛点」です。そのポイントが多いほど重症とします（2ページ目＝28ページの右上図）。
進展すると痛みのポイントはほぼ全身領域に拡大します。この方法で頸肩腕症候群の重症度の判定ができ、治療のガイドラインになります。
頸肩腕症候群を調べるもうひとつの方法は、握力と背筋力の検査です。
これはスポーツクラブなどでも調べられますね。女性だと通常、握力が右25、左25、背筋力が70くらいですが、「頸肩腕症候群」になると右20、左20、背筋力が40くらいに落ちます。ひどくなると右5、左5、背筋力10というケースもあります。
治療法は、休養すること
治療方法はまず休養することです。
休日はゆっくり休み、仕事では1時間のうち45分作業をしたら15分休憩する。8時間業務のうち、デスクワークは5時間までで、後の3時間は別の作業をする、などです。厚生労働省が定めたガイドラインがあるので、参考にするとよいでしょう。
頸肩腕症候群に、激しい運動は逆効果です。スポーツよりも休養を第一にしてください。運動は気分転換に軽くする程度がよいでしょう。
痛みによっては、薬を投与することもあります。消炎鎮痛剤や筋弛緩薬などです。ただし急性の痛みとは違うので、市販の鎮痛剤などは効きません。抗うつ剤や抗不安剤を使うこともあります。人によっては、漢方をすすめることもあります。
「なまけ病」と思われる前に診断を
十分な休息がとれたら、治療院でのマッサージ、鍼灸、整体などに通うのもよいでしょう。どの治療がよいかは人それぞれなので、自身で試してみるしかあnソません。
治療院を選ぶ際の注意点は基本的なことですが、清潔で安全な場所であること。またマニュアル化されたマッサージではなく、一人一人の状態を見て的確なマッサージをしてくれるところがよいでしょう。スポーツマッサージは、刺激が強い場合もありますので注意してください。
私のクリニックには休業期間が10年を越える患者さんもいます。痛みから仕事を休みがちになり、「なまけ病」と思われてしまった人も少なくありません。そうなる前に 「たかが肩こりだ」と放っておかず、我慢せず、早めに専門医に診断をしてもらいましょう。
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